体験記 No.3

2012年2月生まれ 男の子
父はアトピーなし。母がアトピー。

我が家のわんぱく息子の10ヶ月~1歳7ヶ月のアトピー闘病記です。
母親であるわたしが過去にひどいアトピーで苦しみ、20代後半の時に脱ステロイド・脱保湿をした経験があるので、「もしアトピーが出ても、子どもには絶対にステロイドは使わない。保湿もしない」と、妊娠した時から決めていました。

というわけで、この手記は、脱ステロイドではなく「非ステロイド」。はじめから薬を使わないで治した男の子の記録です。

アトピー発症(2012年11月、0歳9ヶ月)

息子のアトピーが発症したのは、ちょうど10ヶ月を過ぎた頃でした。
おでこ~耳のあたりがガサガサし、眠いときやおっぱい・ご飯のときなど、体温が上がるとかゆがる様子。そのうち、背中に500円玉ぐらいの赤いガサガサが出現してきました(こちらは、見た目のわりにはかゆがらない。貨幣状湿疹というタイプとのこと)。

ちょうど保育園に入園し、さらに引っ越しでバタバタしていたので、ストレスがかかったのもしれません。

保育園の先生に心配される(2012年12月、0歳10ヶ月)

発症から1ヶ月くらい経ったころ、保育園の担任の先生にアトピーのことで声を掛けられました。顔のガサガサが目立ってきたので、心配になったようです。かゆがってお昼ごはんに集中できないことがあるようで「薬を園で塗りましょうか?」とまで言っていただきました。

配慮には感謝しつつ、しかしここが踏ん張りどころだと思って、「ステロイドも塗り薬も塗らない治療をしている」ということを説明。自分の体験も含め、連絡ノートにもお手紙を書き「ゆっくり治していきたいので、どうかこのまま見守ってください」とお願いしました。

「お母さんの意向を尊重します」と、薬を保育園で塗る話はなくなりましたが、「子どもが苦しんでいるのに親が薬を塗ることを拒んでいる」と思われてしまったようで、その後の個人面談で再度、説明を求められました。

どうやら、アレルギー乳幼児に関する保育士さんの研修会で、「ステロイドをむやみに怖がるのは間違い!」という講義があったようです。「おくすりとしっかり塗ってしっかり治そう!」と掻かれた立派なパンフレットを3冊くれました。育児相談のカウンセリング窓口の案内も手渡され、「お母さん、今は大事な時ですよ」とアドバイスを受けました。

何もしない治療は、治療放棄・育児放棄と誤解されがちです。

保育士さんたちに悪気はないことは分かっているのですが、家に帰ってから涙が出てきました。「大事な時期ですよ」と諭されたことが、ショックでした。
息子のことを世界一大事に思っているのに、早く治ればいいなあといちばん願っているのも母親のわたしなのに、そこを誤解されている気がしたからです。
どうしたものか・・・。とりあえず「育児放棄じゃない」ということは、普段の生活態度でわかってもらうしかない、と心に決めました。

お顔ぜんたいがカサカサです

お顔ぜんたいがカサカサです

小児科の先生に怒られる(2012年12月、0歳10ヶ月)

アトピーの診断をしてくれたのは、かかりつけの小児科先生です。
「ステロイドじゃない薬をください」と言ったところ、「そんなもん効かないよ」とあっさり。ぐっと言葉に詰まっている間に、さくさくステロイドを処方してくれました。
「ああ、いらないってば・・・」と思いましたが、家で塗らなければいいだけだから、と処方箋を受け取りました。

しかし。運悪く冬場。
保育園でいろんな風邪をもらってきて頻繁に通院せねばならず、あっという間に「ちゃんと薬塗ってないでしょ?」と見抜かれてしまいました。
「自分がステロイドで大変な目にあったから、塗りたくないんです」と説明を繰り返しましたが、「子どもがかわいそうでしょ?こんなにひどいじゃない」と先生。
結局、「薬は出してもらう。でも塗らない」ということが続き、気まずい関係になってきました。

ところが、ある時わたしの実母が小児科へ連れて行ってくれてから、一気に情勢が変わりました。
「ステロイド、塗ってないでしょう」と指摘された母は「塗ってないと思いますよ。だってあの子(私)はステロイドで苦労しましたからねえ」と、母目線で脱ステロイドの大変さを話したそうです。この後、小児科先生にステロイドの件で咎められることはなくなりました。

母の話し方が良かったのか、あるいは第三者から話してもらったことも大きかったのかもしれません。行き詰まったときは、夫くんや祖父母に託すのが良いな、と教訓を得ました。

藤澤皮膚科へ(2013年1月、0歳11ヶ月)

そのうちよくなる・・・と見守っていたものの、実際にはだんだんと湿疹の範囲が広がり、悪化傾向。遊んでいるときは平気ですが、眠くなったり機嫌が悪くなると、かゆいかゆい~と体をクネクネさせます。
年が明けてから、家から車で2時間ほどの藤澤皮膚科(東京都練馬区)を受診することにしました。ステロイドを使わないお医者さんに診てもらうためです。

実は「どうせ何も薬を塗らないなら、お医者さんに行っても行かなくても同じでは・・・」と内心で思っていたのですが、この考えは間違いでした。

藤澤先生は、息子と遊んでくれながらホイホイと診察してくださり、「重症、とまではいかない感じだね」とのんびり。
息子と同じような年齢の患者さんの経過を、いくつも写真で見せてくれました。「はじめからステロイドを使ってないなら、発症から3ヶ月くらいがピークで、6ヶ月くらいで治る子が多いよ」と教えてくれました。春頃には治るかもしれないってことかあ・・・と具体的なイメージを想像すると、気分が明るくなりました。

一緒に診察室に入った夫に「ステロイドを使わないなんて、賢いお母さんだね!」と盛大にエールをくださり、これも大いに効果がありました。
「治るかな~」とわたしが弱音を吐くと、それまでは「アナタが薬使わないって決めたんでしょ」と言っていたのが、「治るよ!先生も治るって言ったじゃん!」と励ましてくれるようになりました。

体の貨幣状湿疹の様子1

体の貨幣状湿疹の様子1

体の貨幣状湿疹の様子2

体の貨幣状湿疹の様子2

1歳のお誕生日~今から思えばこの時がピーク(2013年2月、1歳0ヶ月)

そんな中で、1歳のお誕生日を迎えました。
顔の湿疹が広がって、見た目にもカユそうな感じ。治ってきたな~、と思った頃にガシガシとかき壊されてがっかり・・・という繰り返しでした。
保育園では、たまにガーゼのハンカチを手に巻いて、掻き壊し防止の処置をされていました。

「発症から3ヶ月くらいでピークになることが多い」と藤澤先生が説明してくださった通りの経過なのですが、やはり悪化すると気分がズーンと重くなります。

ときどき、「このまま治らなかったらどうしよう」と不安がよぎりました。たとえば3歳、あるいは小学生まで治らなかったら、ステロイドを塗る選択も考えた方がいいのかな・・・とグルグルと悩んでしまうことがよくありました。

1歳のお誕生日。王冠と首飾りを作ってみました

1歳のお誕生日。王冠と首飾りを作ってみました

顔の湿疹のピークのころ

顔の湿疹のピークのころ

佐藤小児科へ(2013年3月、1歳1ヶ月)

冬の寒さが収まってくると、お顔のガサガサに回復の兆しが見えてきて、ほっと一安心。
貨幣状湿疹は、背中は少しずつ治り、一方でお腹に出現してきました。ただ、かゆがるのは寝る前だけなので、あまり深刻に考えずに過ごしていました。

そして、いよいよ佐藤小児科の診察予約の日。新幹線に乗って大阪へ行きました。
診察は、土曜の午後。ゆっくり時間を取っていただいて、子どものアトピーに関することを、たっぷり教えていただきました。

「治らなかったら、どうすればいいんでしょうか」
バカみたいな質問だな~と思いつつ、美津子先生に不安をぶつけました。
美津子先生は、ウフフフフッ!と笑い、
「そーんなこと心配してるの? 治るわよう!」と断言してくださいました。たくさんの子どもを診てきた経験から、アトピーが治らなかった子はいませんよ、と具体的に説明してくれました。

先生の「ウフフフフッ」という一笑を見ただけで、大阪まで来た甲斐があったなあ、と思いました。「そうか。治るんだ」と、素直に思えるパワーがありました。

息子は、看護師さんにたっぷり遊んでもらって、診察中にぐうぐうお昼寝。帰り道、新大阪駅でいっぱい新幹線を見ることができて、大よろこびでした。

春になるに連れて、ちょっとずつ回復

春になるに連れて、ちょっとずつ回復

断乳しました(2013年3月、1歳1ヶ月)

診察で、美津子先生から「おっぱいは卒業した方がいいよ」という指摘をいただきました。

息子はおっぱい大好きっ子。コレさえあればいつでもご機嫌!夜寝る時ももちろんおっぱい!という子だったので、正直に言って、この最終兵器を手放すことにわたしは自信がありませんでした。
しかし。やっぱり早く治したい。大阪から帰ったその夜から断乳することにしました。

その夜は、美津子先生直伝の「寝たふり作戦」。
ワアアワアアアアと泣き続ける息子を見かねて、夫が2人で別室で寝てくれました。泣いて泣いて、体力が尽きた明け方にやっと寝ました。

おっぱいないの?と泣いてます

おっぱいないの?と泣いてます

翌日(日曜日)は、「くれよ~」「ないよ~」の繰り返し。
夜は、はじめから夫くんとねんねすることにしました。2時間ぐらい抵抗し、1日目よりはあっさり寝ました。

翌々日(月曜日)。朝はどうにかこうにかしのいで保育園へ。
夕方お迎えにいくと、もうおっぱいへの執着はあまり残っていませんでした。ひょい、とおっぱいにタッチしてきましたが、「ないよ」と言うとすぐにあきらめてしまいました。
そして、バクバクバク!とごはんを平らげ、おかわりを催促。おっぱいなしで生きていきますよ、と完全にモードを切り替えたようでした。子どもってすごい。

こうして、3日間で断乳はあっさり終了しました。

食いしん坊になりました

食いしん坊になりました

保育園の先生に納得してもらう(2012年3月、1歳1カ月)

佐藤小児科の診察を受ける1週間前、園長先生から再び「アトピーの積極的な治療を考えてください」と言われてしまいました。理由は「このままでは成長に支障が出るかもしれません」とのこと。
息子は体も小さいし、遊びに対する積極性もちょっと遅い、やはりアトピーをしっかり治さないことに原因があるのでは・・・とのお話でした。

親の目から見ると、息子はよく食べよく笑うフツウの子。しかし、ここで「わたしは心配ないと思ってます」と言うと「やっぱりこのお母さん、子どもに無関心なのかな?」と不信を増幅させる結果になってしまうだろうなあ。どうしたものか・・・。

考えた結果、園長先生に「アトピー治療について、発育について、心配なことは全部教えてください。小児科の女医先生に相談してきます」とお願いして質問事項をまとめていただきました。
内容は、昼寝が短い(1時間半)、うんちがゆるいなどなど。(結果を言うと、断乳をして生活リズムが整うことで改善しました)

診察時、美津子先生に質問メモを手渡したところ、「保育園あてに、わたしから手紙を書きましょうか?」と言ってくださったので、ご厚意に甘えることにしました。

そして後日。
先生からいただいたお手紙を渡した後は、保育士さんたちからアトピーについて意見を言われることはなくなり、暖かく見守ってもらえるようになりました。質問ひとつひとつへの答えと、薬を使わずにアトピーを治すことの説明を読んでもらって、納得してくれたようです。

なーんだ、もっと早く大阪に行けば良かった、と思いました。藤澤先生にも、保育園の対応について相談すれば良かったのかもしれません。

その後はゆっくり治る〈2013年4月~8月、1歳3ヶ月~6ヶ月〉

その後は、ゆっくりと治っていきました。
断乳して劇的に良くなるかな!?と思いましたが、あくまで治り方はゆっくり。ただ、睡眠や排泄がまとまってきて、体全体が丈夫になってきた感じがしました。掻いてしまっても、フツウの傷と同じように、すぐに乾いてカサブタになって治っていきました。

5月ごろ(1歳3ヶ月、発症から6ヶ月)にはお顔のガサガサがなくなりました。8月ごろ(1歳6ヶ月、発症から9ヶ月)には、おなか・背中の貨幣状湿疹もほとんど色が薄くなり、ベランダのプールで楽しく遊ぶことができました(あせもには悩まされましたが・・・)。

今は、電車とアンパンマンが大好きなやんちゃ坊主です。保育園の帰りに公園でいっぱい遊び、帰宅後もプロレスごっこを要求してきます。

・・・ということで、息子の闘病記は、終わりです。

7月のプール遊び。貨幣状湿疹の跡が少し残っています

1歳6カ月の息子。外遊びが大好きです

1歳6カ月の息子。外遊びが大好きです

追記・脱ステロイドしたワタシ(母)のアトピー

補足説明として、母(わたし)のアトピーについて。

小学生のころは、ヒジやヒザが少しガサガサする、という程度で、ステロイドは塗ったり塗らなかったり。
その後、中学2年生、高校2年生と悪化する時期が周期的に来ました。首や背中、腕が真っ赤で、体育祭や宿泊学習を休んだりしていました。
この頃から、何とか治らないかと必死になっていろいろな治療を試していました。ステロイドに関しては、「どうしてもつらい時に少しだけ」という、最低限の使い方をしていました。

社会人になると、ストレスのためか症状が出るようになってきました。終電間近まで働く仕事になり、さらに結婚問題もこじれまして、一気に悪化しました。
27歳の時にどうにもならなくなって仕事をやめ、実家にひきこもりました。とある漢方治療のお医者さんのやり方を信じることにして、脱ステロイドに踏み切りました。

脱ステロイドは、大変でした。
体中にアトピーの症状が出て、体を動かすと痛いので、食事もお風呂も、何もかも苦痛でした。原因不明の大量発汗や、高熱、貧血もあって、何ヶ月かは寝たきりみたいな感じでした。

「これに耐えれば治る」と信じていたわけではなく、もう他にするべき治療がない、というやけっぱちの脱ステロイドだったので、いつも絶望的な気持ちでした。
ときどき、睡眠導入剤を利用していました。無理矢理にでも眠れると、気持ちと体が少しラクになったからです。

ひきこもって8ヶ月くらいたつと、少し症状が落ち着いてきました。
そのころに佐藤健二先生の著書に出会い、ステロイドだけでなく保湿剤(紫雲膏という赤い薬を塗っていました)もやめると早く治ると知り、半信半疑ながら少しずつ紫雲膏もやめると、たしかに皮膚の回復が早くなって、これはすごいなあ、と思いました。

で。習い事→パート→復職、と少しずつ社会復帰し、今の夫くんと出会って結婚。人生、捨てたものではない、と思います。
息子を出産したのは、33歳のときです。
働きながらの妊婦&育児生活で、体力のないわたしは毎日ヘロンヘロンなのですが、ありがたいことにアトピーが再発することはありません。今の生活が、とても幸せです。

以上、あくまで個人的な体験ですが、ご参考になれば幸いです。

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アトピー患者にとって「将来、もし自分の子どももアトピーで苦しんだらどうしよう」ということは、とっても心配です。子どもがかわいそうだし、母親としてサポートしていくことにも不安はたくさんあります。
でも、「だいじょうぶ!」と声をあげていきたいと思います。
親である自分たちの時とは違って、今ではステロイド剤も保湿剤も使わずに治る方法を、たくさんの患者さんが体を張って証明しています。脱ステロイドをサポートしてくれるお医者さんも、たくさんの治療例を示してくれます。
アトピーの子が生まれても、どうか安心してくださいね。(といいつつ、わたし自身もさんざん迷いつつの子育てですが!)

2016/08/18